「ジャンクジャンクドットコムは日本に戻ってきました」とというタイトルで当コラム欄を記したのが6月末のこと。早いものでそれから2ヶ月が過ぎました。日本での生活ペースも徐々に掴みつつあります。現在は東京と兵庫県を往来する日々を過ごしていますが、その合間を縫ってアメリカから届いた荷物を解き、先頃ようやく写真撮影を行ってみました。
その中の一つで、私自身、思い出深いアンティークを今回のコラム欄でご紹介したいと思います。写真右手にありますのが、そのアンティーク。前回のフランスの旅で巡り会いましたLUのバスケットです。素材はブリキ・プレート。まるで天然素材と見まがうかのように、バスケットは全て編み目模様でエンボス加工されています。
実は、私には、LUのバスケットを以前、日本で目にしたことがありました。3年前、日本で開催されていた骨董祭でのこと。その日、広いひろい展示会場をつぶさに見て歩いていたところ、フランスの骨董を扱っているブースで即座に目についたのがLUのバスケットでした。ガラスケースの奥まったところにあったにも関わらず、バスケットはオーラを放っていました。
それは形容し難い魅力だったのです。色彩といい、形といい、小振りなサイズといい……。お店の人に頼んでショーケースから直に手に取らせてもらうとところどころにプリントの剥がれがあったり、錆びが見えたり。それがまたいい風合いなのです。すぐに古いものだと分かりました。しかし、なぜボディー側面にLUというアルファベットが記されているのか? その時の私にはこのバスケットに関しての知識など何もありませんでした。
あまりにも魅力的なバスケットなので頭の中は夢うつつ。うっとりしながらお店の人にお値段を聞いてみたところ、返ってきた答えが「13万円です」。……!? 夢から現実へ、一気に引き戻されました。聞き間違えたのかしら、と思い再び聞き返すと、お店の人から返ってきたのは同じ回答の、「13万円です」。その時の私の表情は驚き以外の何者でもなかったと思います。お店の人は、目を全開にしながらそれでもバスケットを眺め続ける私に呆れ返ったのか、サッとバスケットを取り上げられると、「このバスケットの価値が分からない人には触ってもらわなくて結構です」と言いながら、再びショーケースへと丁重に仕舞われました。その日以来です、私の心の奥底に世界の七不思議として、LUバスケットの存在が深く刻み込まれたのは。
なぜ、LUのバスケットにあのような高い価値が付けられているのか……。
アメリカのアンティーク市場でLUバスケットを目にすることはありません。インターネット上では主に日本のWEBショップさんで、例の骨董祭で耳にした価格とほぼ同じお値段のものを時々目にしていましたが、実物を直に目にすることはその日を最後にぷっつりと途切れてしまったのでした。
[パリのアンティーク街をそぞろ歩きしているときに飛び込んできた魅力的な光景] |
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そして今年3月、その日は、ちょうど短いパリの滞在を終えて明日はアムステルダムに向かおうかという、パリの最終日。骨董店が集まるエリアをそぞろ歩きしていたところ、とても素敵なアンティークショップに行き当たったのです。そのお店は主に古い工具やデコラティブな装飾が施されたワイン抜きなど、アンティークの「ツール」を多数集めており、一つひとつが使い古されて艶光りしているその様はアートの域に入っているのではないかと思うほど、素晴しいコレクションの数々でした。
そんな店内で、ふと一段高い棚に目にやると、企業のノベルティー・コレクタブルに交じって、なんと、このLUバスケットがちょこんと座っているではないですか! 全く予期せぬ邂逅に胸が高鳴りました。久々の対面にも関わらず、LUのバスケットは以前にも増して魅力的です。さっそく手に取り、しげしげと眺め回しながら積年の想いをぶつけるかのようにお店の人にあれこれと質問しました。
LUとは何?
なぜ、このバスケットに高い価値がついているのでしょう?
このバスケットは何年代に作られたのですか?
LUバスケットのプロフィール
お店のオーナーさんはゆっくりとした英語で次のように答えてくれました。
LUはかつてフランスが誇る菓子メーカーでした。創業は1846年、フランスはナントで生まれた会社です(正式社名はLefévre-Utile
[ルフェーベル・ユーティル])。今では他会社がブランド名を引き継いでビスケットなどのお菓子を製造しています。もともとルフェーベル・ユーテル社は企業広告にとても力を入れていたメーカーでした。アールヌーボー期にはかのミッシャにもポスターのデザインを依頼し、また近年ではレイモンド・サヴィニャックが同ビスケットのポスターを手がけています。このバスケットもまた企業ノベルティーグッズの一環として1950年代に製造され、オリジナルは1900年代、パリの万国博覧会を記念して製作されました。その後、1950年代に復刻されたわけですが、50年代のバスケットもオリジナルも共に製産数が限定されており、市場に出てくることは滅多にありません。オリジナルでコンディションが良いものは博物館入りになるほどですし、例え、市場に出てきたとしても、LUには熱心なコレクターがしっかりサーチしているので、アッという間に市場から姿を消していきます。このバスケットは商品棚のスペースを貸しているアンティーク・ディーラーが2日前にここにディスプレイしたばかりなんですよ。「
今こうして手に取れて、あなたはラッキーでしたね」
さて、1900年代に製作されたバスケットは裏に天使と硬貨がプリントされています。1950年代に製作されたバスケットの裏には、LUのキャラクターである少年がこのバスケットを手にした姿でプリントされています。また近年の復刻版にはバスケットの色彩が比較的黄色目を帯びた全体的に薄い(白っぽい)色彩のものが見られますが、私が見つけたこの50年代のバスケットは飴色をした深い色彩で、いかにもアンティークの風采を放っています。
3年前は何も知らずにいた私でした。日本でも今や徐々にLUのコレクターさんが増えてきていることさえ、知らなかったのです。今こうして、価値について知識を得ることができたこと、これこそがまさしくアンティーキングの面白さであり、醍醐味だと思います。私がパリで出会ったLUのバスケットは遥か大西洋を渡り、そして太平洋を渡って日本に辿り着きました。
今回ようやくカタログページでご紹介できることを嬉しく思います。
ジャンクジャンクドットコム マツオ
ただ今ジャンクジャンクドットコムの商品発送が日本国内からとなっています。発送方法や送料のご案内をShipping Costs欄にてご案内しておりますので、ぜひ、ご参考にしてください。
http://www.junkjunk.com/shipping.html
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